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ほの研ブログ - 2025年ほのぼの研究所クリスマス講演会実施報告

2025年ほのぼの研究所クリスマス講演会実施報告

カテゴリ : 
ほの研日誌 » 行事
執筆 : 
NagahisaH 2025-12-21 8:00
 2025年12月4日(木)13時30分より、柏市柏の葉の東京大学柏キャンパス附属図書館メディアホールにて、恒例のほのぼの研究所クリスマス講演会「認知症にそなえる」を開催いたしました。当事業は柏市社会福祉協議会赤い羽根共同募金助成、地域課題解決活動助成を受けて実施したものです。

講演会会場と案内案内チラシ

 諸般の都合で、お申込期間が限定されましたが、120件ご参加・ご視聴(事後動画ご視聴希望を含む)お申込みをいただきました。2024年度来、拠点の柏市を中心に積極的に実施してきた「認知症予防」に関する出講をきっかけに、地域で活躍する高齢者のネットワークとの接点が増えたこと、また、お近づきになった方々にとって、会場のキャンパスへのアクセスにご負担が少ないこともあったのでしょうか、会場には拠点エリアを中心に、40〜90歳代までの多世代、80余名の方々が続々とご参集下さり、会場は早々にぎやかな雰囲気に包まれました。

 開会に際して、まず大武美保子代表理事・所長より、大変大勢の方々のご参集への感謝の念を表しました。そして、認知症という症状を災害となぞらえてみると、認知症を予防(発症時期を遅らせる)こと:「防災」は可能であり、たとえ発症しても、正しい知識や生活習慣等のそなえで、事後の困難を減らすことができるという意味で「減災」といえると述べました。そして、今講演会を認知症の予防に加えて、発症前の検査・診断、その後の治療を含めたトータルな情報を皆様と共有させていただく好機としたいと、本講演会の趣旨を述べました。

 次いで、ご来賓の柏市シニアクラブ連合会会長の山田俊治様からは、柏市を中心にした活発な市民活動の模様をご紹介いただきました。そして、当団体からの出講をきっかけ等で広がった柏市シニアクラブ連合会をはじめとする市内の活動団体相互の連携がさらに進むことを期待したいという、嬉しいご挨拶をいただきました

ご来賓 山田俊治様

 今回は招待講演講師として、遠路はるばる大阪より工藤喬先生にご登壇いただき、「招待講演」「基調講演」「両講師の対談」「交流会」の4部形式としました。
 工藤喬先生は、大阪大学名誉教授、医誠会国際総合病院 認知症予防治療センターセンター長、並びに大阪大学キャンパスライフ健康支援センター特任教授を務められており、ご専門は認知症、うつ病の分子生物学的研究。長い間臨床医としてもご活躍で、大武所長の理化学研究所での共同研究者としても格別のご指導を賜っております。

 招待講演のタイトルは「血液検査と治療薬で認知症の世界が変わる」。まず、100年以上前にアルツハイマー博士がその病変について発表して以来の研究・治療面の歴史を辿ると、この2〜3年が進行を遅らせる薬や診断方法に各段の進歩があり、大きな変曲点になっていると認識され、今回の講話や近著の講話のタイトルに「変わる」というワードを使われたとして、講話が始まりました。

招待講演講師工藤 喬先生と著書


 まず、認知症のうち多くを占めるアルツハイマー型認知症発症の脳には 2つの特徴的な病理組織]型揚辰鉢⊃牲亳鏡維変化が見られ、脳が徐々に縮んで痩せていく進行性の病気 であると詳細な画像を使用して説明されました。次にそれらの発症変化のプロセス(アミロイドカスケード)について、次のように説明されました。
【アミロイドの初期蓄積】アミロイド前駆体タンパク(APP)が2カ所異常に切断 、 アミロイドベータタンパクが生成され、凝集し始める。 老人班を形成⇐この段階は症状出現の約20年前から始まる。
【タウタンパクの変化】 初期のアミロイド蓄積を契機に、タウタンパクがリン酸化 - リン酸化されたタウタンパクは凝集しやすくなる - 神経細胞内に異常な構造(神経原線維変化)を形成。
【アミロイドの蓄積が進行】 アミロイド蓄積がトリガーとなり、タウタンパクの異常が進行。
【アミロイドの増加 ・ タウタンパクの凝集】- 認知症症状の発現 このプロセスは、アミロイドの蓄積が先行し、それに続いてタウタンパクの異常が進行する。

アミロイドカスケード仮説・アルツハイマー病の脳

 次いで、治療薬開発の変遷を交えて、〖最近登場したアミロイドを減少させ、アルツハイマー病の進行を抑制することを目指す2つ治療薬(アミロイド抗体薬―ドナネマブ・レカネマブ)〗の話題となりました。どちらも目的は同じでも、 異なる段階のアミロイドに対して作用するところが異なるとされ、ご自身がセンター長を務められる医誠会国際総合病院認知症予防治療センターでの臨床治療例やその効果、副作用とその対応について紹介されました。

さらに、〖アルツハイマー病の進行発症しても症状出現が遅い認知症にそなえるために、症状出現前の早期発見が可能で、かつ非侵襲的で簡便な認知症に備えることのできる、新しい検査方法〙を紹介されました。

アルツハイマー病の病理変化

 これらは、後に行われる画像バイオマーカー:アミロイドPET検査・ MRI検査、脳内のアミロイド蓄積状況検査に先がけ、行われるものです。
1)デジタルバイオマーカー ( AIを活用した会話分析 (言葉の抑揚・会話の長さ・話題の時制・ 応答パターン・表情変化等による認知症検知システム)
2)血液バイオマーカー
 .螢鷸晴愁織 (アミロイド蓄積状況を予測)
 ▲縫紂璽蹈侫ラメントL(神経損傷の程度を予測)➨共想法実験リクルートにも利用
 神経由来エクソソーム(神経細胞内の状態を血液で測定)
この2つのバイオマーカーテストを導入して、早期発見・診断することで、疾患修飾剤(アミロイド抗体薬等)による早期治療に結び付くという認知症早期発見・治療のための「変わる」新モデルになると述べられました。

認知症早期発見・治療のための新モデル

 最後にランセット研究に基づく年代別認知症リスク要因の幾つかを紹介、特に中年期以降に見落とされがちな要因として「難聴」を挙げ、早期の受診や補聴器装着、機器のこまめなメンテナンスの必要性を強調され、併せて筋力トレーニングもリスク回避には有効と述べられ、終話となりました。

 講話には、聞きおぼえのない用語も多く出てきましたが、時折挟まれる工藤先生の関西弁の説明エピソードが和やかに、しかも印象的に耳に届き、新しく「変わる」ことがしっかり実感できたひとときとなりました。

 続く大武美保子所長の基調講演の「長持ち脳検定の開発−脳を長持ちする生活習慣の普及を目指してー」では、認知症予防に関する有効な知識が断片で普及不足であるという社会的課題を背景に、断片的な健康知識を体系的に整理し、脳が長持ちする生活習慣の普及と行動変容を通じて脳が長持ちする社会の実現を目指したと、開発目的を述べました。

認知症に備えるニーズと検定の対応

 認知症は「後天的な脳の障害によって一度正常に達した認知機能が持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態」であることから、「脳が長持ちする」=【認知症を防ぐのみならず、よりよく生きるために必要な認知機能を脳が一生にわたって発揮し、周囲と良好な関係を築いて社会生活を送れること】であると、強調しました。
 そして、この「長持ち脳検定」は〇前チェックリスト(50項目)、 動画・テキスト教材、 事後確認のための小テストと検定問題 とで構成されること。そして、’知症予防と長持ち脳の知識、 生理的アプローチ、 認知的アプローチ 脳が長持ちする会話の4コースを経て、検定受験(1回/年)合格基準は80点以上と説明しました。「長持ち脳検定」の受講は、 自分の認知症リスクを確認し、 予防方法を学習、そして 知識の定着を確認するものであると述べました。
 
 また、テキストの中から幾つかの設問を投げかけ、下図(ランセット研究に基づく認知症危険要因の図・アルツハイマー型認知症の予防)を示して、神経病理変化の進行を遅らせる(アミロイド抗体薬で早期に治療・食事等生活習慣改善・運動・生活習慣病治療・炎症、感染症防止)生理的アプローチが「防災」(水色)に当たり、たとえ発症しても神経病理変化の影響を減らす(知的活動・社会的交流等)=認知的アプローチが「減災」に当たると説明しました。

認知症の危険要因


アルツハイマー認知症の予防


 続くプログラムの両講師の対談「認知症にそなえる」は会場の皆様からの質問に講師が回答する形で行われました。

対談する両講師

Q1-認知症での物忘れと加齢による物忘れの違いは?==エピソード記憶の確認が必要。細かい詳細は忘れても、基本的なできごとや存在について記憶していたり、ヒントがあって思い出すのは正常。できごとや存在そのものを記憶していないのは要注意。施錠の有無等に関しては、高頻度なら要注意。

Q2-家族の難聴が気になります==メカニズムの研究はこれから。インプットする量にも関わっていると思われます。発症重要な要因ため、耳の聴こえの悪さを軽視せず、積極的に受診、検査を行い、補聴器装着を。そして機器の調整、メンテナンスを定期的に実施して下さい。

 以上に加えて、認知症になっても困らないためには、早期の検査が必須。予防のための一番の推しは聴力検査だと強調され、認知症発症リスク要因である炎症(感染症や糖尿病等による)への予防的アプローチの必要性についても話題が及びました。

 最後に大武所長より、2017年に理化学研究所に着任した当初から開始した、工藤先生と理化学研究所との共同研究では、血液バイオマーカーと会話による認知的な介入の関係の研究を行っていること、「介入試験においては、個人の脳神経の状態に応じたアプローチが重要である」ということが解明され、大きく貢献頂いたという報告がありました。

 期せずして昨年、認知症医療の変革期に認知症に関する正しい知識を広めたいと、『「認知症の」の世界が変わるガイドブック』を、研究成果を社会に還元したいと『脳が長持ちする会話』を出版した2人の研究者は、この対談を通して、認知症の予防と早期対応の重要性、そして個別化アプローチの可能性について、議論したのでした。

 講演会の後は、隣接するコミュニティサロンで交流会を開催。工藤先生を交えて50人近くが参加しました。

交流会で乾杯

 上橋しほと柏市会議員の、難聴者のための補聴器購入助成を、同市にも取り入れるよう働きかけたいという頼もしいご挨拶に続き、参加者の健勝を祈念するする発声で乾杯、歓談の輪が広がりました。

 東葛エリアで活動する団体のお仲間、旧知の方々同士の会話の花がひととき咲いた後、東京都・埼玉県からもご参加の賛助会員の皆様、所属の団体、そしてお住まいの地域ごとに、ほのぼの研究所活動にダブル/パラレルワーカーとして今秋から参加のNTTドコモグループの方々、当研究所の市民研究員がひとこと自己紹介をした後、交流の集いは一本締めをしてお名残り惜しくも終会しました。

 今年第1号として訪れる予報も日中は弱気だった冬将軍が力を取り返した黄昏時、スタッフ一同、多く皆様と認知症に関して貴重な知見を共有させていただけたことに感謝しつつ、家路につきました。

 最後になりましたが、開催にあたり大変お世話になりました東京大学柏図書館の柏サービスチームの方々に、厚く御礼申し上げます。

市民研究員 長久 秀子

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